家具会社のM&Aでは、棚卸資産の合計額だけでなく、どの商品が、どこに、どの状態で保管され、どの条件なら販売・使用できるかを整理します。展示品や仕掛品、廃番品を通常の販売在庫と分けると、買い手との在庫確認や価格交渉で説明すべき点が明確になります。
本記事では、家具の製造・卸・小売・ブランドECを営む譲渡企業様に向け、展示品、仕掛品、張地ロット、廃番色、棚卸差異、在庫年齢表の6項目と、譲渡前に残しておきたい資料を解説します。SKUとは、品番・色・サイズなどで区分する在庫管理上の単位です。
在庫の帳簿価額が、そのまま譲渡価格になるわけではありません
在庫の帳簿価額は、企業価値や譲渡条件を検討するための資料の一つです。「在庫が帳簿上1,000万円あるので、会社の売却価格に必ず1,000万円を上乗せできる」とは限りません。販売可能性、補修や完成までの費用、在庫を含む評価方法、引き継ぐ負債や事業の収益力などと合わせて検討します。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、簿価純資産法・時価純資産法・類似会社比較法などの評価方法が紹介されています。評価額と最終的な譲渡額は同一とは限らず、取引条件を踏まえた当事者の合意が必要です。中小企業庁「中小M&Aガイドライン」を参照し、採用する評価方法や在庫差額の反映方法を専門家と確認してください。
家具M&Aで整理する在庫の6項目
次の表は、一律の減額率を示すものではありません。在庫の状態を確認し、買い手と評価条件を話し合うための整理表です。画面幅が狭い場合は、表を横にスクロールできます。
| 項目 | 保存・準備する資料 | 確認する差異や状態 | 協議する条件 |
|---|---|---|---|
| 展示品 | 展示開始日、現物写真、傷・補修履歴、直近の販売実績 | 通常品として販売できるか。日焼け・傷・付属品の欠品、補修費や再梱包費を確認 | 現状で引き継ぐ範囲、補修担当、処分対象と費用負担 |
| 仕掛品・特注品 | 受注書、図面、工程表、材料・外注費の集計、前受金一覧 | 出来高、残工程の費用、納期、仕様変更・キャンセルの有無を案件ごとに照合 | 完成・納品の担当、前受金との関係、残費用や手直しの扱い |
| 張地・材料のロット | 品番・色・ロット別数量、仕入伝票、保管場所、対応する製品情報 | 必要な長さ・数量がそろうか。色差、劣化、残反、追加調達の可否を確認 | 使用可能分の区分、補修用材料として残す量、不要材料の扱い |
| 廃番色・廃番品 | 廃番通知、最終入荷・販売日、値引販売実績、返品条件 | 追加仕入れや部品交換が可能か。値引き後の販売見込み、セット欠けを確認 | 評価の前提となる販売方法、譲渡前の処分、返品・保証対応 |
| 棚卸差異 | 実地棚卸表、在庫台帳、入出庫記録、預け・預かり在庫一覧 | 台帳と実数の差、二重計上、輸送中品、委託品や顧客所有品の混在を照合 | 基準日の数量確認、対象在庫の範囲、差異が出た場合の調整方法 |
| 在庫年齢・滞留SKU | SKU別入荷日・最終出荷日・数量・帳簿価額・販売実績 | 動きのない期間に加え、季節品・受注対応品など保有理由と販売見込みを確認 | 滞留の判定基準、評価の根拠、販売・処分計画と費用負担 |
同じ品番でも、店舗の展示品、倉庫の未開封品、ECの返品品では状態が異なります。品番単位だけで集計せず、保管場所と状態を分けて記録すると、実物との照合がしやすくなります。
譲渡前に残す資料と、在庫一覧の作り方
まず基準日を決め、在庫台帳と実地棚卸を照合します。写真だけ、決算書だけで判断せず、数量・取得原価・販売実績・状態の根拠を結び付けて保存してください。台帳を修正した場合は、修正前のデータと差異の理由も残します。
- 在庫一覧:SKU、品名、保管場所、数量、帳簿価額、入荷日、最終出荷日、状態区分を同じ表にまとめる。
- 根拠資料:仕入伝票、棚卸表、現物写真、販売・返品履歴、廃番通知を在庫番号や品番から確認できるようにする。
- 案件別資料:仕掛品は受注書、図面、工程表、原価集計、前受金、納期をひも付け、完成までの作業を示す。
- 例外一覧:委託販売品、預け在庫、顧客所有品、返品予定品、担保等の権利関係があるものを通常在庫と区分する。
家具製造業では材料・仕掛品・完成品、小売・ECでは展示品・通常品・返品品など、自社の商流に合った区分にします。取引先名や顧客情報を含む資料は、秘密保持契約と開示範囲を確認して段階的に共有します。
価格交渉の前に合意しておきたい評価条件
在庫の一覧を渡すときは、金額だけでなく計算と確認の前提を添えます。次の4点を初期の協議事項として整理しておくと、デューデリジェンス(買収監査)で追加説明が必要な箇所を把握できます。
- 基準日と確認方法:いつの在庫を評価するか、誰が実物を確認するか、契約から実行までの入出庫をどう扱うか。
- 対象範囲:会社全体の株式譲渡か、特定事業の譲渡かを踏まえ、在庫一覧と契約上の対象範囲を照合する。
- 評価の根拠:帳簿価額、販売実績、補修費、完成までの残費用など、どの資料・前提を使うか。一律の値引率だけで処理しない。
- 差額と費用の扱い:在庫差異を価格や他の条件に反映するか、処分・補修・返品対応の担当と費用を誰が負担するか。
会計・税務上の在庫評価と、M&Aで当事者が合意する価格条件は分けて確認します。在庫評価による調整を企業価値の算定に既に織り込んでいる場合は、別の価格調整との重複にも注意し、会計・税務・契約の担当者で前提をそろえてください。
在庫だけでなく、製造工程や販売力も合わせて整理する
材料や仕掛品を生かすには製造工程の引継ぎが、展示品を販売するには顧客への提案や配送体制が関係します。自社の業態に応じて、次の記事も確認してください。
在庫の状況が整理できていない段階でもご相談ください
最初から全ての評価額を確定させる必要はありません。展示品・仕掛品・廃番品・滞留品を分け、分かる数量と未確認事項を一覧にするところから始められます。資料の不足や現場確認が必要な点も、初期相談時にお伝えください。
当センターは、譲渡企業様から着手金・中間金・月額報酬・成功報酬をいただきません。譲渡企業向けの仲介手数料は0円です。売却を決める前の在庫整理や承継条件についても、家具会社の譲渡・売却相談をご利用ください。
